RAISE3D、FORM2、そして。 忍者ブログ
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■以前、当ブログで、3Dプリンタ「FORM1」についてのレビューを書きました。
その後、Twitter上で、「ZORTRAX M200」についても使用感を書いています。
自分はあくまでも、道具として、より便利な機械を探しているのであり、3Dプリンタについて詳しくなる事が目的ではありませんから、機械としての技術的知識はそう深くありません。
 ただ「如何に仕事が楽になるか」、は飢えた餓鬼の如くに探し続けておりますので、出力を行った回数や、扱った機種の幅広さに関しては多少経験がある方かと思います。
 
 
■現在出回っている3Dプリンターは、一台で万能と言える機械は無いものの、複数の機械を併用すれば、ドラフト(ラフ)出力、仕上げ用出力、実用品の出力など、どの分野でもそれなりに満足できる機種が存在しており「夢のマシン」から、実用できる道具の域になりつつあります。
 先に触れました「ZORTRAX M200」はドラフト出力用のプリンタとして、現在も自分の作業場では最も稼働率が高く、現在関わる殆どの原型は、これで繰り返しドラフトを出力しています。
 今年のグッドスマイルレーシングで活躍する、レースクイーンの皆さんが装着しているヘッドフォンも、ZORTRAX M200によるもので、実用品としての使用にも充分耐えています。(一部はTOONヘッドフォンの外装部品と組み合わせ)
 導入より一年半、散々使い倒してきましたので、流石にガタは来ており、初期よりも出力クオリティは落ちつつありますが、スライサーやファームの進歩で、益々使いやすい機械にもなってきました。
 熱収縮の激しいABS専用機ではありますが、筐体ごとダンボールをかぶせてしまえば、剥がれや変形も激減し、ワークサイズを充分に活かせています。
 
 
■ブログやSNSでは触れておりませんでしたが、「ZORTRAX M200」以降の新機種として、「RAISE3D N2」「FORM2」を扱っており、こちらも良好な結果を得ています。
 (あともう一機種触ったけど、あんまりだったので書きません)

 
 
 
「RAISE3D N2」は、巨大なワークサイズと、ABS以外の樹脂を扱えるFDMとして導入しました。
 導入当初こそ少なからぬ問題を孕み「これはやらかしちゃったか?」と頭を抱えましたが、その後、ホットエンドの改良とスライサーソフトのバージョンアップで、実用的な性能になってきました。
 未だZORTRAXを使う機会の方が多いですが、30cm立法のワークサイズを、PLAならば安定して出力出来るのは、試作業務の多い僕の環境では他に代え難いメリットがあります。
 この機種は、汎用スライサーが使用出来ますので、RISEに適した設定が出揃えば、それだけでも更に使用範囲は拡大するでしょう。
 呆れるほどに筐体が大きく、玄関を通す事すら危ういサイズで、届いた時には正直、天を仰ぎましたが……。
  
 
「FORM2」には驚かされました。
 先代「FORM1」は、ガルバノスキャナ搭載型の光硬化造型機として、常識を打ち破る低価格であり、価格の割には出力クオリティもそこそこ良かったのですが、出力時の失敗が多く、何よりも、機械の故障率があまりにも高かった。
 確認できた範囲だけでも、6台中4台がアメリカのformlabs社に送り返されています。その送料や関税だけでもバカになりません。
 僕のFORM1も早々に故障し、返送されてきた後もあまり安定はせず、故障前よりも失敗の多い残念な機械となってしまいました。
 その後、改良機の「FORM1+」が発売され、安定性は上がったと聞いておりましたが、流石にもう手を出す気になりませんでした。
 FORM2の情報が出回った際も、大きくなったワークサイズや、新しく実装された機能のどれもに有用性を感じる事が出来ず「壊れにくくはなったかもしれないが、他は小手先の誤魔化しを詰め込んだ後継機」という印象で、醒めた目で見ていたというのが本音です。
 
 しかし、実際に発売されたFORM2は、想像を覆すものでした。
 まず、出力クオリティが高いです。
 FORM1の出力物と較べても明らかにブレが減っています。
 流石に、デジタルワックスやエンビジョン系と比べると、平滑性は劣りますし、XY方向の解像度が低い事もあって、細部の再現性にヌルさはありますが、大部分のフィギュアであれば充分と感じられる程、出力品質は良くなりました。ワークサイズも現実的で、FORM1では頻発した、硬化不良や脱落トラブルも激減しています。
 筐体の完成度も高く、自動追加される樹脂タンクや、トレイを撹拌するワイパーも、いざ使ってみると便利なものでしたし、スライサーソフトの進歩も目を見張るもので、以前はお話にならなかったオートサポートも、充分に実用的です。
 付属する剥がしベラや洗浄ポットも「……なるほど!!」と思わせる使い勝手の良さで、「安価であるが故の出荷台数から得られる、多くのユーザーの反応」を、十二分に活かした進化は、企業向けの高価格機よりもドラスティックでした。
 故障率に関しては、判断するにはまだ早い時期ですが、FORM1の修理対応にはformlabsも苦労したでしょうし、企業自身の為にも、信頼性のある部品を使っているのでは無いかと期待しています。
 現在、一般的なフィギュア原型用途での3Dプリンタという括りであれば、お勧めできる機種と言えましょう。
 
(※)自分は使用していないのですが、直接サンプルを見た限りの近い価格帯ではB9Creatorもクオリティは良いと感じました。初期機種の発売から長く時間が経っており、使用実績が数多くあること、根幹に使われている部品が交換の効くものであるため、マシン自体の寿命が長いであろう事も見逃せません
 
 
■上記の2台や、これまで触れてこなかった機種も含めて、そろそろ2桁に達する数の3Dプリンタを触ってきましたが(勿論、その全てを所持しているわけでは無いですよ。)、出力を前提とした作業フローが確立してきた事もあって、道具としての3Dプリンタに関する願望は、一時と比べるとかなり落ち着いてきました。
 充分に使える機械になった、という事もありますし、漠然とした期待、希望を押し付ける事が無くなったというのもあります。
 道具、および道具を使う自分自信の心構え双方が、地に足が着いたものになってきた、というところでしょうか。
 
 
 さて、ここまで長ったらしい文章にお付き合い頂きましたが、本題はここからです。
 
  

 
■大阪に「久宝金属製作所」さんという会社があります。
 主に「棚受」などを作っておられる会社です。
 壁から直接生えているような形の棚、ありますよね?そういった棚を支えるL字型の金属部品、それが棚受けです。
 実のところ、浅井も最近まであの部品の事を「棚受(たなうけ)」と言うとは知りませんでした。
 その棚受を作っておられる久宝金属さんが、何故か3Dプリンタを作っておられます。
 もっと正確に言えば、久宝金属の社長、古川多夢(ふるかわ たむ)さんが、殆どお一人で3Dプリンタを作っておられるのです。
 
■構造はFDM、基盤はRepRap準拠の流通品、ソフトは無料で入手できるKISSlicer。ワークサイズは20cm立法。
 一見、スペックだけを見れば目を引く革新的な構成ではありません。
 自作FDMって、まあ大体こうなるよね、という感じの構成と言えます。
 しかしこの機械の出力サンプルを見て、僕は唖然とさせられる事になります。
 
 FDMを使った経験のある人ならば、解って頂けるでしょうか。
 いや、現物を見ていただかないと伝わらないかもしれません……。
 様々なメーカーが掲げるサンプル出力品を、それこそ数限りなく見てきましたが、こんな出力品を吐き出すFDMは見たことがありませんでした。
 
■今更ですが、FDMというのは、溶かしたプラスティックを、生クリームの絞り器のように、ニュルニュルと積み上げる3Dプリンタです。
 その構造的に、どうしても積層の線が目立ってしまいますし、それを改善しようと思えば、積層を薄くせねばなりません。
 積層だけではありません。溶けた樹脂を吐き出す為の穴(ノズル径)も小さくしなければ、細かな出力は出来ません。
 しかしノズル径を小さくすれば、樹脂を吐き出すコントロールは大変な繊細さが必要になりますし、積層が薄くなれば、その分、動作する回数も増えますから、繰り返し動作の正確性も必要になります。
 多夢さんのマシンは、数字で書きあらわす事のできるスペックは凡庸ながら、カタログスペックでは見えない、非常に大事な部分で自分の知っているFDMの常識を超えていました。
 
■もう少し簡単に書きます。
 通常、FDMでの出力品は、ニュルニュルの跡が目立ちます。
 樹脂色そのままだと誤魔化されますが、サーフェイサーを吹けば結構ガタガタです。
 これは、FDMとしてはかなり綺麗な部類に入る、ZORTRAXでもRAISEでも同じです。
 でも、多夢さんのマシンは、ニュルニュルの跡が明らかに軽減されており、交換式のノズル部ユニットを、細いもの(一般的なFDMの半分程)に交換すれば、サーフェイサーを吹いてもガタガタはほぼ目立ちません。しかも扱いの難しい、その細いノズルでも安定した動作を続けていました。
 おまけにそのサンプル郡は、amazonで買える一番安い、1キロ2000円程度のPLAフィラメントで出力したものだったのです。
  
 サンプルを見て驚いた僕は、大阪の久宝金属さんまで伺いました。
 以降何度か、多夢さんから直接お話を伺うと共に、実際に自分が仕事で使用するものに近いサンプルデータを作成、提供し、意見や希望を述べさせていただきながら、マシンのチューニングに、僅かばかりではありますが関わらせて頂いております。
 
 
■先にも書きましたように、近年は概ね安定した3Dプリンタが発売され、光造形機においても、FORM2という安価で完成度の高い機種が発売されました。
 今後も、同様の光造型機は増えてゆくでしょう。
 原型用途として現在適しているのはこちらでしょうし、FDMの構造上、この先も仕上がりの美しさで光造形を上回る事は難しいでしょう。ドラフトと割りきって扱うならば、既存のFDM機で必要十分な結果を得ることも出来ます。
 
 しかし、コストが安く、軽く、大きなサイズでも強度を保てるFDMでの出力品が、表面の美しさも兼ね備える事に、僕は可能性を感じています。
 例えば、実際に被ることができるマスクやヘルメットのような構造物を作ろうとした時、光造形では細かな分割が必要で、強度も無いために、材質を一度置換えねばなりません。
 一方で、FDMでのPLA出力であれば、分割は少なく、もしくは一体で出す事が出来ますが、その表面処理にはかなりの手間を必要とします。
 個人的には御免被りたい作業ですし、仕上がり具合にはアナログ作業の技術が大きく影響しますから、ことデジタル中心で造形をされてきた方にとって、ハードルは高いでしょう。時間的にも二度手間です。
 その両立が可能な美しいFDM。
 ドラフトにしたって、より綺麗であるなら、その方が良いのです。
 これまで、ドラフトを何度と無く出しながら、細部の形状を読み間違い、光造型機での本出力をやり直した原型がいくつかあります。 
 そのイメージ誤差が少ないFDM。
 それらのメリットから広がる可能性は、少なからぬものでは無いかと思うのです。
(レーシングミクのヘッドフォン作業を行っていた時、このマシンがあればどれだけ助かった事か……!)
 
■なにより、このマシンの筐体が国産であること。
 開発を多夢さんがお一人で進められ、当然ながら技術的な問題に大変明るく、改善の提案にも真摯に耳を傾けて頂けること。
 現在は試作機ではあるものの、単なる趣味で進められているのでは無く、量産を前提とした基準で開発を進められており、それでいて、大量生産の売りっぱなしにならないよう考えておられる事に、僕はとても嬉しくなりました。
 驕った事を言ってしまうようですが、自分のやりたい事に、少し近いように感じたのです。
 
 この度の夏のワンフェス(7/24)では、久宝金属さんが初出展をされます。
 浅井のところでも、このマシンの実機、及びサンプルを展示させていただく事になりました。
 実は、昨日、今日の両日、大阪で行われたメイカーズバザールという展示会でも展示されたのですが、関東では初の展示になります。
 
 
 Q-ho(久宝金属製作所)  4-05-04 

 f-face/plastica(浅井)  4-10-10
 
 
 
 皆さんにも、是非見て、触れて、声を聞かせて頂ければと思います。
 よろしくお願い申し上げます。
 
  
 
 
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