3Dプリンター「Form1」出力レビュー 忍者ブログ
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呆れるほど長い記事になってしまいましたん。
 

 
■夢を見る前に。(3Dプリンターの知識がある方は読む必要はありません)
 3Dプリンターの時代がやってきた、というような話がネット界隈のみならず地上波のニュースなどでも目にするようになってきました。確かにこの数年、宝飾品業界や歯科医療など、ごく一部で扱われてきた出力機は、小さなメーカーやKickstarterのようなクラウドファンディングサイトで多く目にするようになり、価格も個人で手を出せなくも無い価格になってきました(それでも個人消費としては大変高価な部類ではあります)。
 しかし、実際に出力機を触ってきた者にとっては、喧伝される「データさえあれば、ご家庭でプラモデルが作れる」「これからのフィギュアがデータ販売になる」というような言説が、「コピー機発売!これから本は全部コピー機から出てくる時代の到来です!」程度に一足飛びな話であるなーと感じていたりするというのも事実です。
 実際、3Dプリンターでの出力は、個人ユースで手に届くようになった数十万円のものはおろか、業務用に用いられる数百万~数千万円するようなものであっても「期待していた夢の立体コピー機」には程遠く、それだけがあっても、どう使えば良いか持て余すしかないようなものであったりします。
 扱いは面倒、トラブルは多く、ランニングコストも紙のプリントとは比較にならない程に高額です。なにより、データを作成する為のソフトを習得する手間、費用、そして習得できるか否かのハードルの高さは、ちょっと趣味でやってみようというには、相当に腰を据えてかからねばなりません。現実的に、そこまでしてそういったスキルを手に入れよう、運用していこうと考えられるのは、コンシューマーサイズのインダストリアルデザインをされている方や、原型師くらいのものでしょう。
 しかし、個人ユースとしてニュースになりがちな溶解出力系のプリンターは、モックアップには使えても、原型用に使うにはかなり厳しいものがあります。これらはランニングコストに優れ(樹脂1Kgで数千円)、出力時の設定も比較的簡単、出力品の強度もあるため、扱いやすい出力機ですが、肝心の表面がかなり荒く、また磨きやすいとも言えませんので、原型用途ならば複製するか、手で作った方が楽かもと感じるような手間を要します。(ABSも大変ですが、PLAは本当に扱いづらいです)
 それなりに大きなサイズで表面に繊細なディティールの無い、例えばコスチュームの一部などを、後加工前提の素材として準備する、というような用途であれば、充分に便利なものではありますが、フィギュアの原型用途として、アナログでは出来ないメリットを活かす事が目的ならばどうにも厳しい。自分が実見してきた範囲に限りますが、フィギュア製作の現場でも、「コストメリットと前準備の気楽さから、本出力の前の確認用出力」という用法が主だったものになってきていると思われます。
 ではその「本出力」、原型とする為の出力ですが、残念ながらこれを可能とする出力機は、導入費用、ランニングコスト共に非常に高価で、機械自体の扱いも溶解出力機と比べてかなり気を使います。またトラブルがあっても、ユーザーの総数が少なく、その殆どが企業に限られる為、情報交換も限定されてしまいます。おのずと、出力は出力代行業者に任せてしまうのがベター、というのが今日の現状でしょう。フィギュアやプラモデルのメーカーであっても、自前の出力機を構えている所はまだそう多くないのです。
 
■Form1
そんな中、高価な出力機とほぼ同じ機構を持ち、価格も個人に手が届くと期待されたのが、Kickstarterで発表された3Dプリンター「Form1」でした。
 それまで大変高価とされたガルバノスキャナを搭載し、表面平滑性に関しては業務用機としてもトップクラスであったDWS社のデジタルワックスシリーズとほぼ同じ機構を持っていたForm1は、それを知る一部の人間に衝撃を与えました。この機種は、樹脂にレーザーを当てて固めてゆくタイプの出力方式なのですが、スライスを積み上げる際の機構以外、その殆どは同じ構造だったのです。
 その後、パテント問題で業界最大手の3DSystemsから訴訟を起こされ、実際のリリースが伸び伸びとなっていたこともあって危険な空気も漂ってはおりましたが、Kickstarter投資組に関しては無事手元に行き渡ったようです。(訴訟に関しては現在不明)昨年末、浅井の所にも到着しましたので、同系統の構造を持つ業務用機であるDW028と比較しながら、その出力結果をレポートしたいと思います。
 
■スペックの比較
 
DW028
イニシャルコスト:約700万円
ランニングコスト:樹脂1Kgで約9万5千円(複数あり、これは比較的高価なもの)
ワークサイズ:65mm*65mm*90mm
スライスピッチ:0.01~可変
 
Form1
イニシャルコスト:現在で約35万円~
ランニングコスト:1Kg約1万5千円
ワークサイズ:120mm*120mm*120mm
スライスピッチ:0.025 0.05 0.1の3種
 
 スペックだけを見ると、Form1のコストメリットは圧倒的に優っているように見えます。スライスピッチの最小値こそ劣りますが、DW028でも0.025以下のスライスを使用する事は殆ど無く、またワークサイズの大きさは、それを補ってあまりあるメリットです。DW028の上位機であるDW029のワークサイズよりもまだ余裕があり、20倍(029比較ならば30倍)のイニシャルコストを考えれば、夢のような機械だと言えるでしょう。
 出力の為のCAMソフトに関しては、Form1は非常に簡素で、触れるパラメーターは殆どありませんが、その分扱いが簡単だとも言えます。また、両機種とも、出力時にサポートという、プラモデルで言うランナーのような部品を作らねばならないのですが、これにはそれなりにコツが必要です。Form1は、自動でサポートを作成してくれる機能がありますので、こちらも扱いやすさにつながると思われます。(今回のレビューでは自動サポートは使用せず、自分で作成したサポートで出力しています)
では出力結果はどう違うのか、実際の出力品を見てみます。
 
■出力比較
 
 今回出力に用いたのはこちらのデータ。去る1/4に、ロフトプラスワンで行われたトークイベント「アメコミナイト」用のプレゼントとして作成した、サイモン・ビズレー風のバットマンバストモデルです。サイズは、顎から頭頂部(耳含まず)が21mmとなります。肩を含めた左右幅が62mmで、DW028で出力できる限界サイズがこれでした。(今回は諸事情で、撮影時に3脚が使えず、非常にピントが浅くなっております。すみません。)
 

 左から、Form1で0.05mm、0.025mm、DW028で0.04㎜。
機械にもよりますが、スライスピッチは細かい程時間がかかります。今回きっちりと計っていないのですが、Form1の0.05mmで6時間、0.025mmで12時間、DW028の方で8時間程度の出力時間がかかったと記憶しています。
 尚、Form1での0.1㎜出力は、0.05、0.025と比較して一気に粗さが目立った為、比較対象外。あくまでも比較したいのは、Form1とDW028ですので、以降、Form1の比較対象は、より綺麗であった0.025mmの方を中心に行います。
 
 
Form1、0.025mm拡大
 
DW028、0.4mm拡大
 
 一見して解るのは、Form1の方がズレが目立ち、DW028の方が平滑です。このズレはスライスピッチの細かさとは関係なく、不規則に起きていますから、機械の剛性やその他の理由(考えられる可能性は後述)によるものと思われます。
 また、Form1の方は、目頭など、細かいディティールが埋まり気味で甘く、うっすらと太っていました。しかし全体のシルエットでは若干細くなっています。アナログに例えて言えば、一度レジンで複製し痩せたものに、サーフェイサーを多めに吹いたような感じでしょうか。エッジも尖っていません。
 元のデータをどれだけ正確に出力できているか、という点については一概に言えません。なぜならば、この方式の出力機は寸法精度が一定では無く、場所や状況によって若干の誤差を生じさせます。DW028も、寸法精度はよくないです。また、画面を見た印象と現物を見た印象の違いは、個人による主観も入ります(極端な事を言えば、浅井と貴方の目の離れ具合が違えば見える範囲が変わってしまいます)から、データとの相似性を厳密に比較することは困難です。その為、あくまでも2つを並べた時の比較、となります。
 
Form1、0.025mm背面
 
DW028、0.4mm背面
 こちらの角度だと積層ラインがはっきり見えます。ただ、これはあくまでも拡大画像であって、現物の印象はこの画像よりもずっと平滑で、綺麗なものです。
 
Form1、0.025mm別角度
 
DW028、0.4mm別角度
 
 マブタのあたりをご覧いただくと、ディティールが埋まっている、というのがおわかりいただけるかと思います。DW028や、別の業務機種であるパーファクトリーなどでも、スジ彫りなどは実際のデータよりも浅くなる傾向があります。
 
Form1、0.025mm別角度
 
DW028、0.4mm別角度
 
 口なども、やはりForm1の方が浅くなっています。目頭は特に浅く、埋まったようになっていました。またマスクの段差など凸エッジも丸まっています。これは胸部などありとあらゆる凹凸で起きておりましたので、Form1の特性であると判断して良さそうです。
 
Form1、0.025mm拡大
 
DW028、0.4mm拡大
 
 Form1で特に顕著だったのは、ほそい部品になるとズレが大きくなる事でした。
こちらの画像でも、耳がかなり大きくガタついているのがわかります。
 胴体など、断面積の大きなものほどズレが少なく、顔、耳など、断面積が小さくなるに従ってズレは目立つようになりました。これは当初、Form1のプラットフォーム移動方式か、機械剛性によるものかと思っていたのですが、3種のピッチすべてで同様の減少が見られた事から、樹脂が柔らかすぎるのでは無いか、と疑っています。
 Form1,DW028とも、出力終了直後の部品は生の樹脂にまみれ、超音波洗浄器でアルコールに浸して洗浄する必要があります。この際、DW028の出力品は硬すぎる程硬いのですが、Form1の樹脂は数時間ベタつきが取れず、出力後一日程は軟質的な感覚が残ります。この出力時点での柔らかさが問題で、細い部品ほどプラットフォームが移動する度にズレを生じ、固まりが大きければズレを生じづらい、という可能性が考えられるのです。まだ試しておりませんが、DWSの樹脂をForm1で使用すれば、この問題は改善されるかもしれません。
DWSの樹脂を固めるだけのパワーが無いからこの樹脂を使っている、という可能性も考えられますが、いずれにしても試す価値はありそうです。
 
 
 こちらは、1/6スケールサイズの頭部を、共に0.05ピッチで出力したものです。左がForm1、右がDWS028です。(DWS028の方は展示用に使用したものだった為、薄くサフを吹いていますが、スライスピッチを埋めるような厚みではありません)
 Form1は自動サポートを使用しました。
 Form1の樹脂は、グレータイプでも実際には半透明に近く、顔などは表情の印象が異なってしまうのですが実際には大きな違いはありません。バットマンと同じく、細部で甘く、全体に気持ち痩せたかな、くらいの差です。ただこちらは、バットマンよりもズレが少々目立つ結果になりました。
 
 
 Form1、DW028とも、出力方式を大まかに描くとこのようになります。
出力の方法は共に同じ、違うのはスライスを重ねる方法です。
 
 

 DWとForm1の方式の違いはこのようになります。
 レーザーに焼き固められた樹脂は、樹脂タンク(プール、トレイとも。透明アクリル製)の底に貼られた透明のゴムに貼り付いています。これをForm1は斜めに、DW028は垂直に移動するのですが、この貼り付く力はかなり強く、無理矢理ひっぺがすDW028は、1スライスごとに「ベコン!」という音が聞こえる程です。また、その力でサポートが千切れ、出力が失敗してしまうこともあります。
 Form1の斜めに剥がす方法は、その力を分散する目的で選択されたものだと思われます。当初自分は、その方式こそがForm1のズレを生む理由だろうと思っていました。
 その確認の為、この1/6の頭部は、以下の画像のような配置で出力しています。
 
  
 この場合、樹脂タンクは、顔正面に対して上下の動きになりますから、ズレが生じるとすれば、後頭部は綺麗だけど、顔面側がズレる、もしくはその逆、となるわけです。
 
奥行き側
 

手前側
 
 しかしこの頭部は、奥側に大きなズレを発生させ、手前側は比較的少ないズレでした。画像では伝わりずらいのですが、奥側には何箇所か、大きなズレがあるのです。
 左右はタンクの動きに差がありますが、奥側と手前の条件は同じはずです。ということは、タンクの動作方式はズレにそれほど影響していない、という事も考えられるのです。
 勿論、筐体の剛性自体が足りず、ズレは不規則に発生するのだという可能性もありえます。似通った構造で、ワークサイズが大きいにも関わらず、Form1の重量はDW028の半分以下で、全体の大きさも一回り以上小さいですから、剛性にそれなりの差があることは充分考えられる事でしょう。先に挙げた、樹脂の柔らかさと、この剛性の差が、今のところ一番臭いです。
 しかし、もしこの場合なのであれば、剛性という単純な問題で若干なり改善が見込めるかもしれない、という事でもあります。根本的な問題であれば評価は現段階である程度固まってしまいますが、筐体側の問題なら、今後Form1のポテンシャルはまだ改善でき、伸びしろがあるとも考えられます。
 
■その他の違い。
 この形式の出力機では、樹脂以外にタンクが消耗品になります。トレイそのものは消耗しないのですが、トレイに貼ったシリコン層が焼けて劣化するのです。DWでは複数箇所(028で4面、029で2面)、Form1では1箇所しか使用できませんが、Form1のトレイはDWより少し安価($69)です。
これについてはDWを使用しているユーザーでも、シリコンを再生する方法が模索されており、Form1も、ユーザーフォーラムでは既にその話題が出ていますから、いずれランニングコストを圧縮する方法は確率されるでしょう。
 
 また、出力時、樹脂は冷たすぎない状態にしておく必要があります。DW028はヒーターを内蔵していますが、Form1は暖かい部屋で出力を行う事を求められます。ただForm1は一人で移動が可能な重さですので、出力のための専用環境を作らねばならないというような事は無いと思いますし、出力時は暖房を付ける等、ちょっと気を使う程度で問題は無さそうです。
 
 更に、非常に重要な事なのですが、DWの樹脂は非常に硬く、切除するにも気を使いますが、Form1の樹脂は、出力直後こそ嫌な軟質性があるものの、硬化後は適度な硬さがあり、ペーパーがけもしやすい樹脂でした。これは原型用途としては無視できない大きなポイントだと言えると思います。
 
 
 あと余談として、Form1のカバーは、磁石で開閉確認がされるようになっているのですが、自分のForm1はその磁石が欠品しておりました。サポートに問い合わせ、磁石だということは確認できましたので、同型のネオジム磁石を購入し事無きをえましたが、この磁石にも表裏の違いがあるようで、カバーの開閉トラブルに陥った方は、ここを疑った方が良いかと思います。尚、サポートはユーザーページから行いますが、非常に素早く丁寧なものでした。
 
   
■買いか、否か。
 あくまでも、フィギュア等の原型用途に限って、という前提だと了解していただきたいのですが、今現在、個人でも入手できる3Dプリンターで、フィギュア原型の為に使用し、出力後、手加工で仕上げ直す事は覚悟している、という条件であれば、Form1はかなり有効な選択肢だと感じました。
 樹脂も比較的に磨きやすいものですので、固まり感のある美少女フィギュアの身体、手足などでは大きなストレスは無いでしょう。一方で、薄いもの、細いものなどは、評価が1ランク落ちます。美少女フィギュアでも髪の毛の先端や薄いスカートなどは苦手でしょうし、細分化されたメカ原型や、今回サンプルに使用したバットマン、クリーチャーのように情報量が多めのキャラクターは、アナログでの作り直しにそれなりの苦労を伴うと思われます。
 やはりDWと比較すれば、明確にクオリティの違いはわかります。DWがデータを出力して原型とするならば、Form1はデータを出力し、磨き直して原型とするマシンであると受け止めておく必要はあるでしょう。
 しかしそれは、価格で数十倍も違う業務用出力機との比較であって、同じ数十万円クラスである、他の溶解樹脂プリンターと比べれば、圧倒的に原型に向いている事は間違いありません。磨き工程も遥かに楽なはずです。
 むしろ、高価なプリンターはもっと頑張ってくれよと言いたいくらいですが、樹脂溶解タイプでも業務用のu-printなどは安価な樹脂溶解タイプと同じとは思えない程、寸法精度に優れていますし、つまりは「基本方式は同じでも、この差が業務用機のノウハウであり、超えるのが難しい所」があるという事なのでしょう。
 現在Kickstarterでは新たにSLA3Dというプリンターの投資を募っていますが、こちらもガルバノスキャナを使用したタイプで、Form1よりも更に広いワークサイズを備えています。しかし実際にこれがForm1よりも優れているか否かは、数字で読み取れる範囲ではわかりません。そもそもKickstarterはそういったリスクも含めてのファンディングサイトですし、前述のように、同じ方式でも、そこから生まれる成果物のクオリティは大きく違うからです。
 ただ、Form1をきっかけに、個人ユースで(原型用途に使う)3Dプリンターは、一段、二段、くらい現実的になったように思います。導入して後悔せず、期待通りの結果が得られるのはまだしばらく先の話だと思いますが、3Dプリンタを導入する事で、それなりに役に立つ時代の先触れとして、今導入したいんだという方に限っては、Form1は充分おすすめできる内容でした。
 
 
■購入に際して。
 日本での購入は、これまでKickstarterでの募集時のみであり、オンラインサイトでは注文できなかったForm1ですが、現在は配送先に日本が追加されているようですので、購入はオンラインサイトから行うのが懸命だと思われます(但し、本リリース前ですので、実際に購入可能かは現在未だ確認されておりません) (追記:2013年12月の段階で、公式から、日本への出荷は現状未定であるとの返答を得たという情報を教えて頂きました)。クレジットカードは必要になりますが、通販自体はそれほど難しいものではありません、中学生レベルにも達していない自分が大丈夫だったくらいなのですから。
 気をつけていただきたいのは、Form1は現在、日本での正式な代理店を発表していない事です。代理店のように輸入販売を謳い、またそのような業者のプレスリリースを掲載している著名なニュースサイトもありますが「拙い英語での海外通販よりも、日本の業者を通した方が楽だし安心」と思ってしまう前に、まずその業者の評判を調べてみてください。日本語が使える事と、安心とはイコールではありません。革命的に安価になった機械とはいえ、個人の買い物としては大変に高価な製品です。後悔される事の無いよう、しっかりと確認された上での導入をお勧めいたします。
 
 
 
 
 
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